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沢コースを上り、尾根コースを下り、ダム管理用道路を経由して戻る周回コースをご紹介する。
まずは国道121号線を喜多方市より北へ進む。旧熱塩加納村の日中地区を過ぎて大峠道路(通称:大峠レインボーライン)の
トンネル群を幾つか通過してゆくと、福島県と山形県の県境尾根を縦貫する大峠トンネルの入口が見えてくる。駐車場(栃平駐車帯)と公衆電話もある。
大峠トンネルは大峠道路で最長のトンネルで全長3940mに及ぶ。この大峠トンネルの福島県側入口付近に沢コースの入口がある。
案内板(ふくしま緑の百景「日中大桧沢のブナ原生林」)があるのでコースを十分確認して入渓したい。
飯森沢橋を渡り沢に下りた所が、大桧沢と飯森沢の出合いである。大桧沢の左岸に道があるので暫く利用する。
[ 参考 ] ■本格的な沢コースとなるので、沢登りの準備をして入渓する必要がある。
糸滝付近より上流は沢が深いために、沢登りの十分な装備と経験・技術を持った方以外は、上り専用である。
飯森山から尾根コースを経由せずにここの登山口へ戻るには、滝の少ない飯森沢を下るのがいいかもしれない。(要確認)
■飯森山はガイドブックでは“いいもりやま”と紹介されていることが多いが、地元では“いいもりさん”呼ばれることも多いようなので併記した。
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雨の大桧沢は水量が多い。気温も20度くらいと寒いので低体温症にも気をつける必要がある。
道は左岸から右岸へと変わる。自然にできたものであろうか、プリン型の岩が記憶に残る。
「ふくしま緑の百景」に選定されたブナの原生林も美しい。雨と霧で幻想的でもある。
原生林が伐採されずに残って本当によかったと思う。登山口から1時間15分ほどで滑滝。落差のあまりない滑状の滝で指道標がないと見過ごしそうである。
[ 参考 ] 天気予報と天記図を確認すると低気圧の通過に伴い今日は曇り時々雨、明日は晴れ時々曇り一時雨である。
このような日は入渓には向かないが、水量や局所的なゲリラ豪雨、土砂崩れ等に十分注意して入渓する。
天候が悪化した場合、籔を漕いで尾根に駆け上がるか安全な場所でビバークする覚悟と装備は必要である。
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右岸の道はやがて沢に吸い込まれるように無くなる。
滑滝からゴーロ状の沢を15分ほど(登山口から1時間30分)遡行するとウダ滝。左岸の支流から流れ落ちている。
雨で水量が多いため、瀑音がとどろき迫力がある。
次第に渓相が険悪になり、巨岩が目立つ。2mの滝や1mの滝を過ぎる。
ウダ滝から10分ほど(登山口から1時間40分)で落差5m程のミカワ滝。右岸にロープがあり巻く。
5mの滝や3mの滝を越えて巨岩帯を遡行する。45分ほどでアダチ二段滝。2mと5mの二段の滝である。
巨岩帯をさらに15分ほど遡行すると左側の高い岸壁の上から細い滝が流れ落ちている。
落差は20mくらいだろうか、糸滝である。
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巨岩帯の中、幾つかの滝を越えると二段の滝が見えてくる。
四条四段滝の最初の二段である。右岸にロープがあるので巻く。
すぐ次の二段の滝が控えている。四条四段滝の後半二段である。
今度は左岸にロープがある。滑りやすい岩なので気をつけよう。
四条四段滝の上流部でも個性的な滝が幾つか連続する。
濡れた岩の上では体長が20cmくらいあるハコネサンショウウオが休んでいた。
愛くるしい姿に思わず笑みが出た。乱獲により随分とその数を減らしていると聞く。
逞しくこの大檜沢で生き抜いてもらいたい。
[ 参考 ] ■四条四段滝については、
下側の滝と上側の滝を合わせて四条四段滝とする説と下側の滝だけを四条四段滝とする説がある。
当サイトでは前者に従った。
■大桧沢では赤ペンキやチェーン・ロープが随所に見られるが、
沢登りの重要な基本装備の一つとして登山用のロープは必ず持参したい。
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ゴーロ帯に変わると、オサム平。7月いっぱいは残雪があるという。
スノーブリッジとなっている場合、登るか潜るか巻くか悩むところだろう。
次第に両壁が狭まって沢は左へ曲がる。遡行するにつれ瀑音が大きくなってくる。
登山口から5時間、落差18mくらいの黒滝である。その名の通り黒々と光る勇壮な大滝で、
うつくしま ふくしま水百選(滝の部)にも選定された名瀑。
右岸にトラロープがあるので巻く。泥壁(急傾斜の泥濘)のために足場が滑る。ロープを握る握力と腕力もある程度は必要な所。
バイル(沢登り用のハンマー)があれば楽かもしれない。
黒滝から上流もまだまだ越えるのに苦労する滝が幾つか出てくる。手足の引っ掛かりなどを探り、巻くか直登するか判断が必要。
難しい滝には予めロープがあるので活用しよう。巻いてから沢へ降りる時に安全なポイントを探すようにすれば楽である。
黒滝から20分くらいで熊滝。雨で濡れた熊滝は見た目以上に登り難い。運よく大きな流木があったので、その上を伝って登った。
[ 参考 ]
黒滝は滝身の左側を直登することも可能なようだが、滑落の危険も大きい。安全確保するのが無難。
8mm×30mくらいの登山用ロープが使いやすいだろう。シットハーネスまでは不要だが、スワミベルトがあれば便利。
靴は岩への足がかりを考えると、フェルトの沢シューズではなくスパイク地下足袋の方が黒滝の直登には向いていると思う。
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熊滝を越えると最後の難関である哺乳ツクシの滝が待っている。
左岸にロープとチェーンがあるので利用させてもらおう。ロープを引き寄せる時の落石に注意したい。
大人数のパーティではヘルメットがあった方がいいかもしれない。
利用した後のチェーンとロープは、後続者が発見・利用し易いようにきれいに垂らしておこう。
ここでは5mほどの懸垂下降も必要となるが、チェーンとロープが整備されているので安心・手軽である。
7mくらいの滝や3mくらいの滝を越えると、瀞の様相。しばらく遡行すると望平である。
美しい滑床に変わると間もなく二俣(水量1:1)に分かれる。登山口から登り始めて7時間、思案沢に到着。
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思案沢の左俣が飯森山方向。右俣は2008年に「平成の名水百選」(環境省)に選定された栂峰渓流水の核心部。登り詰めると栂峰に至る。
二俣の中央部の踏み跡を10mほど上ってゆくと思案沢キャンプ場。
思ったより広い。笹藪を刈り払いすれば、2〜3人用のテントで10張りくらいは可能ではないだろうか。
本日の宿泊地である。テントを張り、濡れた衣類を脱いで着替える。
テントの脇にロープを張り、濡れた衣類を掛ける。小雨なので乾かないだろうが仕方ない。
ガスコンロに火を付けてお湯を沸かし、夕食を済ませてコーヒーを喫する。気温20度という真夏にしては寒い一日の沢登りで冷えた体が温まる。
至福の時間である。小雨が続いているので、二俣付近の水量と水位を確認のうえ寝床についた。
[ 参考 ] ■健脚であれば日帰り可能であろうが、通常はこの思案沢キャンプ場で一泊して余裕のある山行にしたい。
キャンプ場奥のダケカンバ近くの笹藪には大きなブルーシートが何枚かデポされている。
沢開きなどで利用するものであろうか。緊急時には借用することも許されるだろう。
天候悪化などでキャンプ場に足止めになった場合に備え、食糧は多めに持ちたい。
■キャンプ場はゴミや汚れが少々だが気になる。みんなのキャンプ場なので綺麗に使いたい。
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翌朝は5時半に起床し7時に出発する。今日も小雨が降る生憎の天気であるが、沢の水量と水位は昨日と変化なしで一安心。
次第に晴れてくるようなので期待したい。
思案沢に別れを告げ左俣を遡行すると、瑠璃色に透き通った美しい釜を持った滝が連続する。風呂屋横丁の始まりである。
各々個性的な釜である。暑い時には浸かると気持ち良いだろうが、今日も肌寒くそんな気持ちにはなれない。
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中ほどに直登困難な滝があったので右岸を巻いた。
8月上旬、沢沿いによく見られるモミジカラマツやミズキが見頃を迎えていた。
ハナヒリノキやネバリノギランも随分見かける。
思案沢から1時間ほどかけて15個くらいの釜を越えると、風呂屋横丁も終わり穏やかな瀞となる。
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原頭部が近づいてくると水量が減ってくる。落差2mくらいの小さな滝が最後になる。狭く水量の少ないガレた沢を登り詰める。
苔むして滑りやすいので気は抜けない。さらに10分ほど藪漕ぎすると稜線に出る。稜線との出合い頭の木には赤ペンキの目印がある。
沢方向を返り見ると霞んでよく見えない。天候が回復しそうなので数分待っていると雲が引けて明るくなり、栂峰が見えてきた。
[ 参考 ] 稜線が近くなると一匹のスズメバチが頻りに私の周りを行ったり来たりするようになる。
テリトリーに近づかないように警告をしているのだろうか。私の肩に止まったので暫く刺激をしないようにこちらも動きを止める。
ススメバチとの対峙は1分ほど続いたが、一片の風が吹き込んだ瞬間に飛び去って行き、安堵の溜息が出る。
一度スズメバチに刺された方はアナフィラキシーショックで行動不能になる可能性があるという。
黒色の衣服を避ける、露出部分を少なくするなどの工夫のほか、ポイズンリムーバーやアドレナリンの自己注射器(エピペンなど)、
抗ヒスタミンやステロイドの錠剤(プレドニン錠など)の携帯を検討するのもいいだろう。
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飯森山山頂へ至る稜線は綺麗に刈り払われていて快適だが、栂峰方向の稜線は籔状態である。
3分ほど登ると飯森山神社の裏手へ出る。古い石祠が二基あり、信仰の頂として賑わった往時を偲ばせる。
飯森山神社から2分で一等三角点のある山頂。思案沢を出発してから1時間30分である。
8月上旬、アカモノやオオバスノキの実が目立つ。
[ 参考 ]
旧熱塩加納村の最高峰となる飯森山は県境の一等三角点の山としても訪れる登山者が多い。
福島県には一等三角点は全部で25箇所、県境も含めると31箇所(福島県の一等三角点一覧)。
そのうち県境の一等三角点は、基準点コードの若い順に、三本槍岳、八溝山、浅草岳、貉ヶ森山、
土埋山、飯森山、飯豊山、手倉山、栗子山の9個である。
残念ながら貉ヶ森山と飯豊山、栗子山の3個以外は、福島県の三角点としては登録されていない。
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山頂からは眺望を存分に楽しめるはずだが、小雨があがってようやく晴れ間が出てきた所。
北東の栂峰は望めたが、北西の飯豊連峰は雲に隠れて見えない。
鉢伏山からの眺望に期待しよう。アップダウンの続く長い尾根コースを下る。疲れた足腰には少々キツイ。
[ 参考 ] 飯森山にはオオシラビソが生えていないが、栂峰の山頂部にはオオシラビソの木々が確認できる。
この隣り合う標高のほぼ同じ二つの山の違いは何だろう。同様のことが飯豊連峰と吾妻連峰にも言える。
土壌や地形、積雪量など、植生分布を考えるうえで面白い。
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鉢伏山へは鞍部の種蒔へ一度下ってから上り返す。アカモノの目立つ登山道を下ってゆくと池塘が三箇所ある。
ミズバショウも随分みられるが、白い花(仏炎苞)は見られない。見頃は過ぎたのだろうか、それともこれからだろうか。
最後の池塘は大きく深さも腰くらいありそうである。巻き道から滑り落ちないように注意したい。
念のため、沢靴から登山靴に履き替える方はこの池塘を過ぎてからの方が賢明であろう。
子安神社付近からは快適な尾根道となる。飯森山の山頂から2時間で、鉢伏山山頂。
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天候もだいぶ回復してきた。山頂からは飯森山と栂峰、吾妻連峰、安達太良連峰、磐梯山、
会津盆地、飯豊連峰、朝日連峰の雄大な眺望を十分楽しめた。
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鉢伏山山頂を後にして大倉ノ頭と地蔵山を経由して日中ダムの登山口を目指す。
登山道は尾根の東側を少々トラバース気味に通る所が多い。灌木の根が張り滑りやすいので注意。
鉢伏山頂から30分ほどで高倉窪キャンプ場。登山道の両側に各々6畳ほどのスペースがある。
ここから3分ほど東側の沢へ下りた所に水場があるようだが確認していない。
血ノ池には小さな池塘がある。血ノ池から10分ほどで大倉ノ頭。
[ 参考 ] 種蒔、地蔵、血ノ池など飯豊山(表参道)と同じ名称が見られる。
飯豊山の山岳信仰との関係を調べてみるのも面白いだろう。
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大倉ノ頭付近からは磐梯山と櫛ヶ峰の眺めがいい。
眼下の大倉沢に目をやると大峠道路の大倉沢橋が遥か遠くに見える。トラックやオートバイの走る音が聞こえてくる。
何時間か後にはあの橋の上を歩いて大峠トンネル南側の登山口へ戻るのだが、まだまだ遠い。
地蔵山が近くなるとブナ林の中の広く快適な登山道に変わる。
地蔵山山頂付近には遭難の碑がある。若くして亡くなった方のご家族が建てられたのだろうか。
合掌して通り過ぎる。飯森山山頂から4時間30分で地蔵(地蔵神社)。地蔵から30分で薬師(薬師神社)。
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山の天候は変わり易い。先程まで晴れ間が見えていたが雲が広がり小雨が降ってきた。
足腰はだいぶ疲れてきたがまだまだ先が長いのでゆっくりもしていられない。
薬師から先は、急な下りが続く。フェルト底の沢シューズの場合は特に滑りやすいので注意が必要。
見晴らし台では灌木により視界が限られる。飯森山山頂から6時間30分で尾根コースの登山口へ出る。
[ 参考 ] 車を一台ここにデポできれば、残りのダム管理道路と大峠道路の歩きを省略できるだろう。
今回は車をデポしていない為、尾根コースの登山口から日中ダムのダム管理道路を通って石楠花トンネル南側入口(ダム管理道路の終点)へ出る。
ふくしま緑の百景の案内図には「沢登りコース入口」と記されている所である。ここから大桧沢を遡行するコースについては未確認。
次に、石楠花トンネル南側入口からそのまま大峠道路(国道121号線)を歩いて大峠トンネル南側入口の登山口まで戻る。
合計2時間ほどのアルバイトである。ダムの管理用道路は舗装されているが少々荒れている。小さな落石や落盤もあるので気をつけたい。
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